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  • 執筆者の写真ジュエリー法務相談室

なぜ御木本パリ裁判(1924年)では民事責任と刑事責任が両方審理されたか(フランスの裁判制度)

1つ謎が解けました。

やはりフランスでは,不法行為(刑事罰と民事損害賠償が両方問題になる)を同じ裁判官が一緒に審理するシステムだったようです。





『フランスの裁判制度(1)』 中村義孝 ( 立命館法學 2011(1), 1-61 )

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/11-1/nakamura.pdf


まず,1810年以降,民事事件と一部の刑事事件をどちらも「第一審裁判所」が裁判する制度が整理されました。


第2期は,1810年から1958年までで,制度の安定期である。1810年4月20日には,これまでの司法制度改革を総括する「司法機構の組織および司法行政に関する法律」(全8章66条)が制定される。この法律は,20世紀の前半まで司法組織の真の憲章を構成していたといわれる8)。この法律により,従来の控訴院と重罪司法院を廃止して新たに民事および刑事事件を裁判する終審としての帝国法院(cour imperiale)が設置された。この法律は,さらに,民事事件および違警罪事件を裁判する第一審裁判所,重罪を裁判する重罪院の規定,裁判官と検察官の規律に関する規定を一定整備している。この法律以降,注目すべき安定期が始まるのであり,それは20世紀半ばまで続く。(9,10頁,下線を加筆)



そして,フランスの普通法裁判所は,「刑事裁判と民事裁判の統一性の原則」がとられているようです。


民事裁判と刑事裁判の統一性の原則
民事と刑事の普通法裁判所は,司法組織の基本原則として相互に組織上の統一性をもっている。この原則は,簡易裁判所,小審裁判所,大審裁判所および控訴院についてあてはまる。小審裁判所は民事の第一審裁判所であると同時に刑事については違警罪裁判所である。同じ裁判官が,同時に民事の裁判も刑事の裁判も行う
大審裁判所も民事の第一審裁判所であるとともに刑事に関しては軽罪部と呼ばれる特別な部が軽罪を裁判する。この裁判所では合議制が採られている。(23頁,下線を加筆)

つまり,この「民事と刑事の統一性の原則」により,犯罪により生じた損害の賠償という民事の裁判も,同じ第一審裁判所が審理を行うというシステムだったのです。このあたりは日本の現行法制度とは全く異なりますので,御木本パリ裁判の判決を読む際にひっかかっておりました。


この民事裁判と刑事裁判の対応性と組織の統一性により,犯罪によって引き起こされた損害賠償に関する民事訴訟は,その犯罪について裁判する刑事裁判機関により同時に裁判される。この民事訴訟は「付帯私訴」(action civile)と呼ばれ,犯罪の被害者は,刑事訴訟に要した費用の償還請求,奪取された物の返還請求,損害賠償請求を公訴と同時に刑事裁判機関に提起することができる
日本にもかつては付帯私訴の制度はあった。明治13年の治罪法(2条,4条),明治23年の刑事訴訟法(4条,5条),および大正11年の刑事訴訟法(576条以下)は,付帯私訴について定めていた。日本の現行法ではこういった付帯私訴は認められておらず,犯罪の被害者は改めて民事訴訟を起こさなければならない。(24頁,下線を加筆)

謎が解けて非常にすっきりしました。





また,本件はセーヌ県第一審民事裁判所第三小法廷のグルニエ裁判官によってだされていますが,その管轄のことも少しヒントになる記述がありました。


1790年当時の第一審裁判所は行政区画であるディストリクト(district)ごとに設置されていたから,ディストリクト裁判所(tribunal de district)とも呼ばれていて全国に545 の裁判所があった。
2010年現在フランス本土に175,海外に6の大審裁判所があったが,2008年2月15日のデクレ第2008-145号および第2008-146号により2011年1月1日からその数は158 に減らされた(序の注2)参照)。
大審裁判所は,第一審として民事事件および刑事事件を裁判し,刑事事件を裁判するときは軽罪裁判所(tribunal correctionnel)と呼ばれる(司法組織法典L. 211-1 条)。(37頁,下線を加筆)




さらに,「第一審裁判所」(1万ユーロ以上)と「小審裁判所」(4000ユーロ超え1万ユーロ未満),さらに「簡易裁判所」(4000ユーロ未満)という事物管轄のちがいもわかりました。1924年当時はユーロはないので,事物管轄はどうだったかわかればさらに原告(ポール)の請求内容がわかるかもしれません。



大審裁判所の一般的権限は,訴訟事件の性質と請求額を理由として他の裁判機関に管轄権が付与されていないあらゆる民事事件および商事事件を裁判することである(司法組織法典L. 211-3 条)。現実には,請求額が10,000ユーロを越える民事の性質をもった訴えを裁判する。10,000ユーロを超えない額については小審裁判所が管轄し(司法組織法典L. 221-4 条),4,000ユーロを超えない額については簡易裁判所の管轄とされている(司法組織法典L. 231-3 条)。(38頁,下線を加筆)

ここまででかなり手続法の部分は理解できました。

あとは,当時のフランス法に名誉毀損罪に相当する刑事法がどのように規定されていたのか,また,民事の不法行為の要件(御木本判決では,「認識ある過失」に匹敵するという判示がありました)が現代の日本とどのようにちがうのか,などをさらに調べていきたいと思います。


なお,昨日書いた山口先生の記事への私見については本日山口先生ご本人に直接手渡しすることができました。



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