JCB THE PREMIUM 12月号 に,山口遼先生の「真珠と人の長い歴史」という記事が掲載されました。
一般社団法人日本真珠振興会 真珠検定委員会ウェブサイト
http://pearlexperts.net/archives/2577?fbclid=IwAR23f0sxtPdDhMw1rlKnfEBL3xmevEfciyH_9tN6FweF5sFD3si51_8uIJo
当ブログでもたびたび書かせていただいている御木本パリ裁判についても,以下のように記載されております。
「養殖真珠の成功が西欧に伝わったときの衝撃の大きさは,天然真珠を扱う業者に養殖真珠の排斥運動を起こさせ,ついにはパリで裁判を起こされるほど強烈なものでした。世界的な論争を巻き起こしたこの裁判は,1924(大正13)年,日本の勝訴で終結します。このとき,きわめて公正な研究を行い天然真珠と養殖真珠との間に違いはないと堂々と主張した学者たちの論文は,いま読んでも頭が下がるほど見事なものです。」(47頁)
尊敬する山口先生の文章に意見するなど大変おこがましいにもほどがあるのを承知しながら,あえてコメントさせていただくと,
「裁判を起こされる」というのはおそらく正確ではなく,名誉毀損的な記事などに対してミキモトのパリ支店長ポールを原告とし,パリの真珠・宝飾商卸売り業者組合およびその代表シトロエン個人を被告とする損害賠償請求訴訟だったというのが判決文からわかりますので,どちらかといえば「ミキモトが提訴した」というべきでしょう。
さらに細かいところでいうと,原告もパリのミキモトの支店長であるポールというおそらくフランス人,被告もフランスの組合および代表者シトロエンなので,日本のミキモトや御木本個人は訴訟当事者ではありません。ただ,背後の実質的な勢力関係からすると,「日本真珠VS欧州の天然真珠卸業者」という構図があったことは否定できません。「日本(の養殖真珠)の勝訴(商売を含めた意味での勝利)」と表現するのは広い意味では決して誤りではないと思います。
もちろん山口先生の「真珠と人の長い歴史」という壮大なスケールのお話の中ではこのようなパリでの訴訟の法律的な部分は取るに足らない些末な問題であることを付言しておきます。
それよりも,冒頭で引用させていただいた「裁判を報じた当時の記事」や「天然ものと養殖ものが科学的に相違ないことを示す論文」などの写真は貴重な資料だと思いますので,いつかMIKIMOTOの資料室などで拝見する機会があればいいなと思います。